FIRE後の暮らしを守るお金の話① 高額な医療費でもFIRE生活は続けられる?実例で解説

税金・社会保険

FIRE後の生活で、多くの人が不安に感じることのひとつが、病気になったときの医療費です。
特に、がんのように治療が長期にわたる病気になった場合、

「FIRE生活を続けられるのか」

「医療費で家計が破綻しないか」

と不安になる方も多いと思います。この記事では、昨年亡くなった母のがん治療で実際にかかった費用を、時系列に沿って紹介します。

ただし、この記事は闘病記ではありません。伝えたいのは、病気そのもののつらさではなく、実際にどのくらいの医療費がかかり、制度によってどこまで負担が抑えられたのかというお金のリアルです。

母は父と二人暮らしの年金生活で、住民税非課税世帯でした。この状況は、FIRE後の暮らしとかなり近い家計環境だったと考えています。

結論から言うと、高額な医療費が発生しても、日本の公的医療保険と高額療養費制度は非常に強く、FIRE生活がすぐに破綻するようなものではないと感じました。

今回は、2024年2月から8月までに実際にかかった費用を紹介します。

今回のケースの前提条件

今回紹介するケースの前提は以下のとおりです。

  • 父と母の二人暮らし
  • 父(当時80歳)、母(当時77歳)ともに後期高齢者
  • 収入は年金(月15万円程度)
  • 住民税非課税世帯
  • 医療費の自己負担割合は1割

なお、本記事で紹介している医療費には、がん治療に直接関係する通院や入院だけでなく、内科での高血圧治療、眼科での白内障・緑内障治療、歯科での口腔ケアなど、もともと継続していた通院費用も含めています。実際の生活では、医療費はがん治療だけが単独で発生するわけではなく、その他の治療も同時に進んでいくためです。そのため本記事では、がん治療費だけを切り分けるのではなく、その時期に実際に発生した医療費全体を計上しています。これは、FIRE後の暮らしを考えるうえでは、がん治療だけを抜き出した数字よりも、現実に近い医療費負担の全体像を示す方が参考になると考えたからです。

FIRE後に医療費が不安になる理由

FIRE後は、現役時代のような給与収入がなくなり、資産や年金をベースに暮らしていくことになります。
そのため、がんのような大きな病気になったときに、

  • 医療費が青天井で増えるのではないか
  • 長期治療で資産の取り崩しが加速するのではないか
  • 生活費まで圧迫されるのではないか

と不安になりやすいです。
ですが、実際には病院で発生する医療費総額と、家計から最終的に出ていく自己負担額は大きく違います。今回の実例を見ると、その差がかなりはっきり分かります。

2024年2月 原因不明の発熱と倦怠感、3か月にわたる通院

2024年2月、母に原因不明の発熱と倦怠感が出始めました。

コロナでもインフルエンザでもなく、ここから3か月にわたる原因究明の通院が始まります。

この時点ではまだ病名は分かっておらず、検査や診察を重ねながら原因を探していく段階です。

大きな入院や手術がなくても、通院回数が増えると医療費は少しずつ積み上がっていきます。

2024年2月

  • 通院8回
  • 医療費:139,580円
  • 自己負担額(1割):13,958円
  • 高額療養費支給額:5,958円
  • 高額療養費適用後:8,000円

2月は通院8回で、医療費総額は139,580円でした。

1割負担では13,958円ですが、高額療養費制度の適用後は8,000円に抑えられました。

2024年3月

  • 通院5回
  • 医療費:57,280円
  • 自己負担額(1割):5,728円
  • 高額療養費適用なし

3月は通院5回で、医療費総額は57,280円でした。

この月は自己負担額が高額療養費の上限に届かなかったため、制度適用はありませんでした。

最終的な自己負担額は5,728円です。

2024年4月

  • 通院6回
  • 医療費:81,010円
  • 自己負担額(1割):8,101円
  • 高額療養費支給額:101円
  • 高額療養費適用後:8,000円

4月も通院が続き、医療費総額は81,010円でした。

自己負担額は8,101円ですが、高額療養費適用後は8,000円です。

この3か月を通して感じたのは、診断がつく前の段階でも、通院や検査が続けば医療費は確実に発生するということです。

ただし、住民税非課税世帯かつ1割負担という条件では、毎月の家計負担はかなり抑えられていました。

2024年5月 病名が判明、入院治療へ向けた通院が始まる

2024年4月下旬、ようやく原因が判明しました。病名は頭部血管肉腫(けっかんにくしゅ)でした。

血管肉腫は100万人に1〜2人と言われる極めて稀な「希少がん」で、5年生存率は10〜20%と言われています。

それほど予後の厳しい病気で、6月からの入院治療へ向けた通院が始まりました。

2024年5月

  • 通院5回
  • 医療費:145,300円
  • 自己負担額(1割):14,530円
  • 高額療養費支給額:6,530円
  • 高額療養費適用後:8,000円

5月は通院5回で、医療費総額は145,300円でした。

1割負担では14,530円ですが、高額療養費適用後は8,000円です。

この時点でも、請求ベースの医療費は高く見えますが、実際の家計負担はかなり抑えられていました。

2024年6月 放射線治療のため入院

2024年6月からは、放射線治療のため入院となりました。

この期間は、今回の中でも最も医療費が大きく動いた時期です。

入院になると医療費そのものだけでなく、

  • 食事療養費
  • 寝具などのレンタル費
  • 長期入院に伴う周辺費用

も発生します。

ここはFIRE後の家計を考えるうえで、とても重要なポイントです。

なぜなら、医療費本体は高額療養費制度で抑えられても、入院に伴う周辺費用は別でかかるからです。

2024年6月

  • 入院28日間
  • 医療費:1,791,020円
  • 自己負担額(1割):179,102円
  • 高額療養費支給額:154,502円
  • 高額療養費適用後:24,600円
  • 食事療養費:55,610円
  • 食事療養費自己負担額(非課税世帯):19,090円
  • 寝具等レンタル費:12,012円

6月は28日間の入院で、医療費総額は1,791,020円でした。

数字だけ見ると非常に高額ですが、自己負担額は高額療養費制度適用後で24,600円です。

さらに、食事療養費の自己負担が19,090円、寝具等レンタル費が12,012円かかっています。

そのため、6月に実際に家計から出ていった金額は以下のとおりです。

  • 医療費自己負担:24,600円
  • 食事療養費自己負担:19,090円
  • 寝具等レンタル費:12,012円
  • 合計:55,702円

2024年7月

  • 入院31日間
  • 医療費:1,542,720円
  • 自己負担額(1割):154,272円
  • 高額療養費支給額:129,672円
  • 高額療養費適用後:24,600円
  • 食事療養費:62,310円
  • 食事療養費自己負担額(非課税世帯):21,390円
  • 寝具等レンタル費:13,299円

7月は31日間の入院で、医療費総額は1,542,720円でした。

この月も高額療養費制度により、医療費自己負担は24,600円に抑えられています。

実際にかかった金額は以下のとおりです。

  • 医療費自己負担:24,600円
  • 食事療養費自己負担:21,390円
  • 寝具等レンタル費:13,299円
  • 合計:59,289円

2か月連続で100万円を超える医療費が発生していますが、家計からの実際の持ち出しはそれぞれ約5万〜6万円台に収まっています。

2024年8月 退院後、抗がん剤治療がスタート

2024年8月、2か月以上の入院を終えて退院しました。

ここからは週1回の抗がん剤治療が始まります。

抗がん剤は3週実施、1週休みのサイクルで一生続けることになります。

頭部血管肉腫は、それほど予後の悪いがんなのです。

今回の記事ではここまでを対象にしますが、FIRE後の医療費を考えるうえで重要なのは、入院で終わりではなく、その後も継続的に治療費が発生するという点です。

2024年8月

  • 入院10日間
  • 通院5回
  • 医療費:399,730円
  • 自己負担額(1割):39,973円
  • 高額療養費支給額:15,373円
  • 高額療養費適用後:24,600円
  • 食事療養費:18,760円
  • 食事療養費自己負担額(非課税世帯):6,440円
  • 寝具等レンタル費:4,290円

8月は入院10日間と通院5回があり、医療費総額は399,730円でした。

この月も高額療養費制度により、医療費自己負担は24,600円に抑えられています。

実際の支出は以下のとおりです。

  • 医療費自己負担:24,600円
  • 食事療養費自己負担:6,440円
  • 寝具等レンタル費:4,290円
  • 合計:35,330円

2024年2月〜8月までに実際にかかった金額

ここまでの金額を一覧にすると、次のようになります。

主な内容 医療費 自己負担額
(1割)
高額療養費
支給額
高額療養費
適用後の負担額
食事療養費 食事療養費
の負担額
寝具等
レンタル費
実際の
支出合計
2月 通院8回 139,580円 13,958円 5,958円 8,000円 8,000円
3月 通院5回 57,280円 5,728円 0円 5,728円 5,728円
4月 通院6回 81,010円 8,101円 101円 8,000円 8,000円
5月 通院5回 145,300円 14,530円 6,530円 8,000円 8,000円
6月 入院28日間 1,791,020円 179,102円 154,502円 24,600円 55,610円 19,090円 12,012円 55,702円
7月 入院31日間 1,542,720円 154,272円 129,672円 24,600円 62,310円 21,390円 13,299円 59,289円
8月 入院10日間+通院5回 399,730円 39,973円 15,373円 24,600円 18,760円 6,440円 4,290円 35,330円
累計 2024年2月〜8月 4,156,640円 415,664円 312,136円 103,528円 136,680円 46,920円 29,601円 180,049円
 

2月〜8月の累計

  • 医療費総額:4,156,640円
  • 自己負担額(1割):415,664円
  • 高額療養費支給額:312,136円
  • 高額療養費適用後の負担額:103,528円
  • 食事療養費:136,680円
  • 食事療養費の負担額:46,920円
  • 寝具等レンタル費:29,601円
  • 実際の支出合計:180,049円

この数字はかなり印象的です。

医療費総額は415万円を超えているのに、実際の支出合計は約18万円に収まっています。

しかも、ここで集計している通院費には、がん治療に直接関係する診療だけでなく、内科・眼科・歯科など継続中だった他の通院費用も含まれています。

つまりこれは、がん治療だけを抜き出した数字ではなく、実生活の中で実際に発生していた医療費全体の金額です。

もちろん、交通費日用品代などを含めれば、実際の負担はもう少し増えるはずです。

それでも、「がん治療=すぐに何百万円もの自己負担が必要」というイメージとはかなり違うのではないでしょうか。

実例からわかったこと

今回の実例から、FIRE後の医療費について感じたことは大きく3つあります。

1. 医療費の総額と自己負担額はまったく違う

請求書や診療明細を見ると、医療費総額の大きさに驚きます。

実際、6月は約179万円、7月は約154万円でした。

ですが、家計にとって本当に重要なのは総額ではなく、最終的に自分たちがいくら払うのかです。

公的医療保険高額療養費制度によって、自己負担額は大きく抑えられていました。

2. 住民税非課税世帯だと負担はかなり軽くなる

今回のケースでは、住民税非課税世帯だったことが大きかったです。

高額療養費の上限が低く、食事療養費の自己負担も抑えられていました。

FIRE後は収入を抑えて暮らすケースも多いため、家計設計によってはこうした制度の恩恵を受けやすくなります。

これはFIRE生活の防御力のひとつだと感じました。

3. 現実の医療費は「がん治療だけ」では終わらない

今回の記事で集計した医療費には、がん治療に関する通院や入院だけでなく、内科、眼科、歯科などの継続治療も含めています。

現実の生活では、がんになったからといって他の病気の治療が止まるわけではありません。

高血圧の治療も、白内障や緑内障の治療も、口腔ケアも、必要なら並行して続いていきます。

その意味で、FIRE後の医療費を考えるときに大事なのは、「がん治療だけならいくらか」という計算ではなく、実際の暮らしの中で医療費全体がどう増えていくかを見ることだと感じました。

4. 本当に注意すべきなのは医療費以外の支出

今回あらためて感じたのは、医療費本体は制度でかなり抑えられる一方で、食事代や寝具レンタル費などの周辺費用は確実にかかるということです。

今後さらに考えるべきなのは、

  • 交通費
  • 日用品代
  • 付き添いに伴う出費
  • 差額ベッド代
  • 在宅医療や介護に移行した場合の費用

といった、医療費以外の部分です。

FIRE後の備えとして本当に必要なのは、医療費に過度におびえることではなく、周辺費用も含めて生活全体で耐えられる家計を作っておくことだと思います。

高額な医療費でもFIRE生活は続けられるのか

今回の実例を見る限り、少なくとも日本で公的医療保険が適用される治療を受けるケースでは、高額な医療費だけを理由にFIRE生活がすぐ破綻する可能性は高くないと感じました。

2024年2月から8月までの医療費総額は415万円を超えました。

それでも、食事療養費やレンタル費を含めた実際の支出合計約18万円です。

しかもこの金額は、がん治療に直接かかった費用だけではなく、内科・眼科・歯科などを含めた医療費全体です。

そう考えると、日本の公的医療保険制度と高額療養費制度は、FIRE後の暮らしを支えるうえで非常に大きな存在だと感じます。

もちろん、これは

  • 住民税非課税世帯であること
  • 1割負担であること
  • 差額ベッド代など大きな追加負担がなかったこと

といった条件があるため、すべての家庭にそのまま当てはまるわけではありません。

それでも、「がんになったら終わり」と思い込む必要はないと感じています。

日本の公的医療保険制度は思っている以上に強く、特に低所得・住民税非課税に近い家計では、医療費負担はかなり抑えられます。

FIRE後の生活設計を考えるなら、この現実を知っておくことには大きな意味があります。

まとめ

今回は、2024年2月から8月までに実際にかかった医療費を時系列で紹介しました。

ポイントをまとめると、次のとおりです。

  • 診断前の通院段階でも医療費は少しずつ積み上がる
  • 入院治療が始まると医療費総額は一気に大きくなる
  • ただし高額療養費制度によって自己負担額は大きく抑えられる
  • 住民税非課税世帯では食事療養費の負担も軽くなる
  • 実際の医療費は、がん治療だけでなく他の持病治療も含めて考える必要がある
  • FIRE後に本当に意識したいのは、医療費だけでなく周辺費用を含めた生活全体の支出

FIRE後の暮らしには不安がつきものですが、制度を正しく知ることで見え方はかなり変わります。

今回の実例が、「病気になったらFIRE生活は終わり」と不安に感じている方の参考になればうれしいです。

次回は、2024年8月以降に始まった抗がん剤治療にかかる費用を具体的に紹介したいと思います。

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