FIRE(Financial Independence, Retire Early)は「経済的自立と早期リタイア」を意味します。仕事に縛られず、自分の時間を自由に使い、やりたいことに挑戦できる生活。そんなFIREを実現するためには、資産運用や節約だけでなく、税金や社会保険料の負担をどうコントロールするかも重要なポイントです。特にFIRE後は給与収入がなくなり、国民健康保険や国民年金、生活費を投資収益や貯蓄でまかなうことになります。税や社会保険料を最小限に抑えることは、FIRE生活を長期的に安定させるための必須戦略といえます。
ここで注目したいのが「住民税非課税世帯」という制度です。一定の所得以下であれば住民税がかからず、国民健康保険料や年金保険料の軽減、公共料金割引、教育費軽減、さらには臨時給付金など数多くの優遇を受けられます。本記事では、令和6年度基準の数値をもとに、住民税非課税世帯の条件や具体的なメリット、さらにFIRE後にこの状態を維持する方法を解説します。制度や金額は年度や自治体ごとに異なる場合があるため、必ず最新の自治体公式情報をご確認ください。
住民税非課税世帯とは
住民税非課税世帯とは、「世帯全員が住民税の課税対象とならない世帯」を指します。
住民税は、居住している都道府県や市区町村に納める地方税で、教育・福祉・ごみ処理などの公共サービスを運営するための財源となります。毎年1月1日時点で日本に住所があり、一定の所得(給与や年金など)がある場合は、原則として納付義務があります。
住民税には「所得割」と「均等割」という2種類があります。
所得割は個人の所得額に応じて課税される部分で、税率は一律10%です。所得が高いほど支払額も増えます。
一方、均等割は所得の多寡に関係なく一定以上の所得がある人全員が同額負担するもので、金額は5,000円(道府県民税(都民税)1,000円、市町村民税(特別区民税)3,000円、森林環境税1,000円)です。
ただし、所得が一定金額以下であれば住民税は非課税となります。そして世帯員全員がこの条件を満たしている場合、その世帯は住民税非課税世帯と呼ばれます。
住民税非課税世帯の判断基準
住民税が非課税となる条件には「所得割と均等割の両方が非課税」と「所得割のみが非課税」の2種類があります。このうち、住民税非課税世帯とは、世帯全員が「所得割と均等割の両方が非課税」の条件を満たしている世帯を指します。
以下では、東京23区に住む場合に、所得割と均等割の両方が非課税になる条件を紹介します。
- 生活保護法による生活扶助を受けている人
- 障害者・未成年者・寡婦、またはひとり親で、前年中の合計所得が135万円以下(給与所得者の場合は年収204万4,000円未満)の人
- 前年中の合計所得が次の金額以下である人
- 同一生計配偶者や扶養親族がいない場合(単身)
45万円 以下
- 同一生計配偶者や扶養親族がいる場合(夫婦、夫婦+子 など)
35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の人数)+31万円 以下
住民税非課税世帯の所得目安
所得の上限額の計算式
同一生計配偶者や扶養親族がいない場合(単身)
45万円以下
同一生計配偶者や扶養親族がいる場合
35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の人数)+31万円以下
例)夫婦
35万円×2人+31万円=101万円
例)夫婦+子1人
35万円×3人+31万円=136万円
例)夫婦+子2人
35万円×4人+31万円=171万円
給与収入(年収)換算の計算式
例)単身
年収100万円(100万円−給与所得控除55万円=所得45万円)
例)夫婦
年収156万円(156万円−給与所得控除55万円=所得101万円)
例)夫婦+子1人
年収205万7,000円(205万7,000円−給与所得控除69万7,100円=所得135万9,900円)
例)夫婦+子2人
年収255万7,000円(255万7,000円−給与所得控除84万7,100円=所得170万9,900円)
家族構成 | 所得の上限額 | 給与収入(年収)換算 |
単身 | 45万円以下 | 約100万円以下 |
夫婦 | 101万円以下 | 約156万円以下 |
夫婦+子1人 | 136万円以下 | 約205万円以下 |
夫婦+子2人 | 171万円以下 | 約255万円以下 |
※お住まいの地域の住民税を計算したい場合は「住民税の自動計算サイト」をチェック!
※住民税が非課税になる金額はお住まいの地域によって変わります。詳細は自治体ホームページでご確認ください。
住民税非課税世帯が受けられる優遇措置
国民健康保険料の軽減
国民健康保険料の負担が、お住まいの自治体や世帯の状況に応じて2割〜7割軽減されます。年間で数万円から十数万円の節約効果が期待でき、FIRE後の限られた収入を有効に活用するうえで、固定支出を抑える非常に重要な要素となります。
国民年金保険料の免除
全額免除(令和6年度:月額16,980円)の場合、年間で約20万円(夫婦であれば約40万円)もの負担軽減につながります。さらに、免除期間中であっても将来の年金額はゼロにはならず、実際に保険料を納めた場合の2分の1に相当する年金を受け取ることができます。そのため、支出を抑えながら老後資金の一部を確保できる、FIRE生活において非常に有効な制度です。
医療・介護費の軽減
毎月の医療費の自己負担を一定額に抑えられる「高額療養費制度」では、自己負担額は所得水準によって異なりますが、住民税非課税世帯は特に優遇され、一律で3万5,400円(70歳未満)に設定されています。これにより、予期せぬ病気やケガで高額な医療を受けた場合でも、家計へのダメージを大幅に軽減できます。
さらに、住民税非課税世帯の65歳以上を対象に介護保険料の軽減措置も導入されました。加えて、高額な介護サービスを利用した場合の自己負担上限額も最大2万4,600円と低く抑えられ、医療・介護両面で安心してサービスを利用できる環境が整えられています。
教育費の軽減
高校授業料の実質無償化や大学授業料の減免に加え、一定条件を満たせば奨学金の返済免除も受けられるなど、教育費負担を大幅に軽減できます。これらの制度は特に子育て世帯にとって大きな経済的支援となり、子どもの進学や学びの機会を広げる後押しとなります。
公共料金の割引
電気・ガス・水道などの基本料金が軽減される自治体もあり、日常的な生活コストの削減につながります。特に冬季に暖房費がかさむ寒冷地では、その効果は非常に大きく、家計の負担軽減に直結します。また、こうした割引制度は申請が必要な場合も多いため、対象者は自治体の案内やホームページを事前に確認しておくと安心です。
給付金の支給
国や自治体から支給される臨時特別給付金の対象にもなりやすくなります。例えばコロナ禍で実施された1人あたり10万円の給付のように、経済的支援が必要な状況で迅速に現金が受け取れるケースが増え、生活の安定や予期せぬ支出への備えに役立ちます。
FIRE後に住民税非課税世帯を実現・維持するためのポイント
所得の調整
サイドFIREでアルバイトやパート収入を得る場合は、年間の所得が住民税非課税世帯の基準額を超えないよう、勤務時間を調整することが大切です。収入が基準を少しでも超えると非課税扱いにならないため、余裕を持った計画が必要です。
特定口座の取り崩し
特定口座から投資信託や株式を売却して資金を取り崩す場合は、以下の点に注意しましょう。
特定口座(源泉徴収あり)
「源泉徴収あり」を選択している場合は、源泉徴収は証券会社が行うため、原則として「確定申告不要=課税所得に加算されない」という扱いになります。ただし、税金を還付してもらうためなどの理由で確定申告を行ってしまうと、その売却益が課税所得に加算され、非課税基準を超えてしまう可能性があるため注意が必要です。
特定口座(源泉徴収なし)
「源泉徴収なし」を選択している場合は、確定申告を行う必要があります。その際、売却益はすべて課税所得として計上されるため、非課税基準を維持したい場合は取り崩し額やタイミングを慎重に管理することが重要です。
NISA口座の取り崩し
NISA口座は売却益や分配金がすべて非課税扱いとなるため、その利益は課税所得に一切加算されません。つまり、利益を得ても住民税や所得税の負担が増えず、非課税世帯の条件を維持しながら資産を効率的に取り崩すことが可能です。
まとめ
住民税非課税世帯は、FIRE生活における支出最適化のための極めて強力な手段です。税金・保険料・公共料金の軽減や給付金の支給など、年間で数十万円規模の節約が現実的に可能となり、その効果は家計に直接的かつ長期的なインパクトをもたらします。重要なのは「課税所得を限度額以下に保つための綿密な計画」を立てることです。その実現には、NISAなどの非課税制度の積極的活用、各種控除の最大限利用、そして資産の取り崩し方やタイミングの工夫が欠かせません。こうした制度を上手に組み合わせることで、FIRE生活をより長く持続可能にし、かつ経済的にも精神的にも安心した日々を送ることができます。