今回は、FIREを目指す人にとって非常に重要なテーマである「FIRE後の国民年金はいくら?0円にできる免除制度と注意点」について、最新情報をもとにわかりやすく解説していきます。
FIREという言葉を聞くと、投資やお金の少し難しい話を連想しがちですが、実は公的保険料や税金との付き合い方こそ、FIRE生活の安心感や自由度を大きく左右します。特に負担になりやすいのが次の3つです。
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国民年金保険料
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住民税
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国民健康保険料
この記事では、その中でもとくに負担が大きい「国民年金の免除制度」を中心に、FIRE後の生活費を最小限に抑えるために知っておくべき税金・保険料のポイントを詳しく紹介します。
国民年金とは?FIREするとどうなる?
まずは基本をおさらいします。
■国民年金は20歳〜60歳までの全員が加入
日本では、20歳以上60歳未満のすべての人が国民年金(老齢基礎年金)に加入する決まりになっています。
■会社員時代は厚生年金
会社員の間は「厚生年金」に加入しており、給与から自動的に天引きされています。
■FIRE後は厚生年金 → 国民年金に切り替わる
退職すると厚生年金の加入が終了し、第1号被保険者(自分で国民年金を納める立場)になります。
ここで問題になるのが「保険料の重さ」です。
国民年金保険料はいくら?
2025年度の1人あたりの国民年金保険料は以下のとおりです。
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月額:17,510円
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年間:約21万円
夫婦2人なら…
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月額:35,020円
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年間:約42万円
FIREして収入が減った後にこの金額を支払うのは、正直かなり負担が大きいですよね。しかし、FIRE=無職=所得が低いという状況になりやすいため、多くの方が国民年金の「免除制度」を利用できます。押さえておきたいのは、FIRE後は「国民年金保険料を0円にできる」可能性があるということです。
ここからは、その仕組みと条件を丁寧に解説します。
国民年金の免除制度とは?
国民年金の免除制度とは、経済的な理由により保険料の納付が難しい人に対し、国民年金保険料を免除・猶予してくれる制度です。
■免除制度を使うメリット
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保険料が0円になる(全額免除の場合)
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未納扱いにならないため、将来の年金受給資格が確保される
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全額免除でも、半額分の年金が将来受け取れる
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10年以内なら追納して満額に近づけることも可能
■未納には注意が必要
免除申請をせずに放置してしまうと「未納」扱いになり、
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年金が受け取れない
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障害年金・遺族年金の受給要件を満たせなくなる可能性が高くなる
など、デメリットが大きくなります。必ず申請を行い、未納状態にならないよう注意しましょう。
免除制度の種類
国民年金には、以下の免除制度があります。免除の種類によって負担の軽減度合いや将来受け取る年金額が変わるため、自分に合った制度を理解して選ぶことがとても重要です。ここでは、それぞれの制度の特徴を、初心者の方でもイメージしやすいように少し詳しく紹介します。
■全額免除
保険料が全額免除され、将来受け取る年金額は本来の1/2になります。「収入が大きく減ってしまった」「FIRE直後で働いていない」という状況の方は、この全額免除に該当するケースが非常に多く、FIRE生活の初期負担を大きく減らせる制度です。
さらに、全額免除期間は単に“支払っていない期間”として扱われるのではなく、老後に受け取る基礎年金が半額分カウントされるため、未納とは大きく違います。生活に余裕が出てきたタイミングで“追納”も可能なので、無理なく老後資金を調整できる柔軟性の高さも魅力です。
■一部免除(4分の1・半額・4分の3)
所得に応じて保険料の一部が免除され、免除割合に応じて受け取れる年金額も変わります。
たとえば4分の3免除なら、支払う保険料はわずか25%で済む一方、将来の年金額は8割ほどカバーされるなど、負担を減らしつつ老後の年金額もしっかり確保できるバランスの良い制度です。
一部免除は、
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収入を完全にゼロにはしない「セミリタイア」スタイル
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パート・アルバイトを少しだけ続ける働き方
など、FIRE後に“少し働く人”との相性が非常に良い制度です。
■納付猶予
50歳未満で所得が一定以下の人が対象で、保険料の支払いを先送りできます。
「払わない」のではなく「後回しにできる」制度で、若いFIRE層にとっては使いやすい仕組みです。ただし、猶予期間中は年金額が増えないため、老後の年金額を確保したい場合には、後から“追納”することが重要になります。FIRE初期の資金繰りが苦しい時期には猶予を活用し、生活が安定してから追納することで、老後資金と生活費を無理なく両立できます。
免除の所得条件
免除制度を利用するには、前年1月〜12月の所得が基準以下である必要があります。
| 区分 | 所得条件※ |
|---|---|
| 全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 |
| 4分の3免除 | 88万円+控除額 |
| 半額免除 | 128万円+控除額 |
| 4分の1免除 | 168万円+控除額 |
| 納付猶予 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 |
※世帯主・本人・配偶者の所得が対象。納付猶予は本人と配偶者のみ対象です。
このルールは初めてだと分かりづらい部分もあるため、例を使って説明します。
【例1】単身の場合(扶養なし)
※以下の所得金額は「扶養親族がいない」「社会保険料控除などを最低限(概算)」とした場合の目安値です。実際の免除判定は、各種控除額(社会保険料控除・基礎控除・配偶者控除など)により上下します。
計算式:(0+1)×35万円 + 32万円 = 67万円
| 所得基準 | 区分 |
| 67万円以下 | 全額免除 |
| 〜100万円 | 4分の3免除 |
| 〜138万円 | 半額免除 |
| 〜176万円 | 4分の1免除 |
| 176万円超 | 免除なし |
【例2】夫婦2人(扶養1人)の場合
※以下の所得金額は「配偶者控除あり」「社会保険料控除などを概算で加味」した場合の目安値です。実際の免除判定は各世帯の控除額により変動します。
(1+1)×35万円 + 32万円 = 102万円
| 所得基準 | 区分 |
| 102万円以下 | 全額免除 |
| 〜145万円 | 4分の3免除 |
| 〜183万円 | 半額免除 |
| 〜221万円 | 4分の1免除 |
FIRE後に少し働く「セミリタイア型FIRE」の人は、このラインを超えないよう収入を調整しましょう。
全額免除でも年金は受け取れる?
安心してください。全額免除でも年金は受け取れます。ただし、『どのくらい減るのか』『本当に将来困らないのか』と不安に感じる方も多いと思います。ここでは、できるだけイメージしやすいように、具体的な金額を使って比較してみましょう。
■40年間まるごと全額免除した場合
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約40万円/年(老齢基礎年金の半額程度)
全額免除と聞くと『将来ほとんど年金がもらえないのでは?』と心配になるかもしれませんが、全額免除期間も”1/2の保険料を払ったもの”として扱われるため、まったくのゼロになることはありません。最低限の基礎的な年金がしっかり確保される仕組みになっています。
■40年間満額で払った場合
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約83万円/年(老齢基礎年金の満額)
満額で支払った場合と比べると差はあるものの、全額免除期間が続いたとしても老後に一定の基礎収入として受け取れる点は非常に大きな安心材料です。
また、全額免除の期間があっても、10年以内であれば『追納』することで将来の年金額を満額に近づけることも可能です。 そのため、FIRE直後の収入が少ない時期は無理せず免除を活用し、後から余裕が出てきたタイミングで追納する“段階的な対応”ができる点も大きなメリットです。
免除申請の方法
免除制度は、自動では適用されません。必ず自分で申請手続きを行う必要があります。つまり、条件に当てはまっていても“何もしなければ免除されない”ため、FIRE後の生活費を少しでも抑えるためには、この申請がとても重要なステップになります。
申請の流れは決して難しいものではなく、数十分あれば終わる内容です。特にFIRE直後は収入が大きく下がりやすいため、免除制度を活用することで家計の固定費をしっかり抑えられます。ここでは、申請できる場所や具体的な方法について、より詳しく紹介します。
申請先
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住民票のある市区町村役所
最も一般的な方法で、窓口で申請書を提出します。必要書類などもその場で案内してもらえるため、初めての人でも安心です。 -
最寄りの年金事務所
役所よりも年金制度に詳しい担当者がいるため、制度の疑問点をその場で相談したい人に向いています。 -
マイナンバーカードがあれば「マイナポータル」でオンライン申請も可能
外出せずに手続きできるため、FIRE後に時間を節約したい人、遠方に住んでいる人、仕事の空き時間に手続きしたい人にとって非常に便利な方法です。夜間でも申請できるのが大きなメリットです。
また、申請は「その年の7月〜翌年6月」の期間に行いますが、収入が急に下がった場合に使える“特例申請”も用意されています。FIREのように退職した直後は前年の所得が高く見えるため、本来の生活状況と合わないケースがあります。このような場合には、この特例を使うことで『前年の所得』ではなく『退職後の実際の収入状況』を基準に判定してもらえることがあります。
退職後は必ず手続きをして、負担を軽減できる部分はしっかり軽減していきましょう。
国民年金だけでなく「住民税」「国民健康保険料」も重要
FIRE後によくある失敗が…
国民年金は免除できた → でも住民税と国民健康保険料が高くなった…!
というケースです。実際、FIRE後の相談で最も多いのがこのパターンで、「年金が0円になって安心していたのに、住民税や国民健康保険料が想像以上に高かった」という声がよくあります。
特に住民税は前年所得を基準に計算されるため、FIRE直後の1年間は“まだ働いていた頃の収入”が反映され、税金が高くなりやすいという落とし穴があります。退職後に収入が急減しているにもかかわらず、前年の収入が高いせいで負担が跳ね上がるのです。
また、国民健康保険料も同様に前年所得によって決まる部分が多く、FIRE直後の1年は保険料が高止まりしがちです。FIREを計画する際には、この“タイムラグによる負担増”を忘れずに考えておく必要があります。
したがって、FIRE後の支出を最小化するためには、次の3つをセットで考えることがとても重要になります。
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国民年金(免除制度の活用)
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住民税(前年所得とのバランス)
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国民健康保険料(所得割を抑える工夫)
この3つは互いに影響し合うため、どれか1つだけ最適化しても不十分なケースが多いです。たとえば、国民年金を全額免除のラインに抑えても、住民税の非課税ラインを超えてしまえば保険料が膨らみますし、国保の所得割が増えてしまうこともあります。つまり、FIRE後の生活費を本当にミニマムに抑えるためには、この3つを“全体として”見ながら収入の調整を行うことが成功のカギとなります。
まとめ
FIREは、単に“働かない生活”を目指すものではなく、税金や公的保険料の仕組みを理解し、それらを上手にコントロールしながら、自分らしい暮らしを長期的にデザインしていくためのライフプランです。特にFIRE後は、働き方・収入・支出を自分自身で柔軟に調整できるからこそ、制度をどれだけ理解しているかによって生活の自由度が大きく変わります。
制度を知ることで、「どこまで働くと税金が増えるのか」「どの収入ラインを守れば保険料を抑えられるのか」「年金の免除制度をどう活用すると無理なく生活できるのか」といった重要な判断がしやすくなります。これらの知識は、FIRE後の安心感や生活の安定にも直結するものです。
つまり、FIREは“経済的に逃げ切る”ことではなく、制度と上手に付き合いながら、自分に合った最適な生き方を選び続けるための知識と工夫が欠かせないライフスタイルだといえます。

